大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(う)493号 判決

被告人 伊藤夏子 外一名

〔抄 録〕

所論は原判決は事実を誤認し、法令の適用を誤つたものである。即ち本件各外国人登録証明書は鎌倉市々吏員であつた相被告人伊藤夏子が職務上の権限に基ずきただ所定条件を具備しない者に対し作成交付されたにすぎないものである。

右伊藤夏子の本件外国人登録証明書作成の所為は行政処分行為であるから取り消される迄は有効であり、条件を具備していないものに対しこれを作成交付したことは公務員の職務上の規律違背にすぎないもので、刑事上の責任を負うべき筋合のものではない。

又被告人李の司法警察員、検察官に対する本件公訴事実を認める旨の供述は任意性のないものであつて、これによつて事実の認定をした原判決は判断を誤つた違法のものである。

仮に被告人李に刑事上の責任を負うべきものありとすれば、それは同被告人が公務員に対し虚偽の事実を申し立てて、免状に不実の記載を為さしめた刑法第一五七条第二項の責を負うにすぎないというに在る。

しかし乍ら、被告人李は原審公判廷において、本件公訴事実たる有印公文書偽造の所為を全部自認しているのであつて、原判決引用の関係証拠によれば、原判示第一の(一)乃至(四)、第二の(一)乃至(三)、第三の(一)乃至(四)、第四の(一)の(イ)、(ロ)、(二)、第五の如く被告人李は相被告人伊藤夏子その他の者と共謀の上、行使の目的をもつて、擅に外国人登録証明書空白用紙に所定事項を記入し、鎌倉市長の印章署名を冒用して、同市長の作成すべき外国人登録証明書合計一五通を順次作成偽造した事実を十分認めることができるのである。

而して、原審証人久保田侃の原審公判供述中には、鎌倉市々長がその外国人登録証明書の作成権限の一切を右伊藤夏子に委任したものであるかの如く認められる部分も存在するのであるけれども、同人のその余の供述部分殊に、登録証明書を作成する係が、市長の職印を押捺するにつき、平常の機械的な定まつた事務に対しては一々上司の許可をうける必要はないが、新規のものとか、証明書を出すのに疑問を生じたような場合その他判断に苦しむ場合は回議用紙にこの事務を如何に処理すべきか伺書を書いて係長、課長に、事務の内容によつては助役、市長にも禀議し、その許可のあつたときその係員において市長の職印を押捺しうる旨の部分に対比すれば、右所論に吻合する部分は信用するに足らないものである。原審はこの部分は勿論信用しなかつたものと認められる。相被告人伊藤夏子の検察官に対する昭和三〇年一一月二五日附供述調書の記載及び久保田侃の右措信しない部分を除くその余の原審公判供述を総合すれば、伊藤夏子は鎌倉市役所の吏員として、外国人から正規の登録申請手続が為された場合にのみ、同市長の補助機関即ち市長の手足として、外国人登録証明書を作成交付しえたにすぎず、同市長から同市長の職務に属する右証明書作成の権限を包括的に委譲されていたものでないこと即ち伊藤夏子には外国人登録証明書を独立して作成しうる職務上の権限は全くなかつたものであることを十分認めうるのである。

ところで、外国人登録証明書というのは我国に在留する外国人がその居住地の市町村長(東京都その他特定の市にあつては区長、以下同じ)に対し居住関係、身分関係を明確にする為の事項を登録してあることを当該市町村長において登録事項の内容を明示して証明する市町村長の作成すべき文書であつて、これによりその所持者は我国に正当に在留することを証明する作用を営むものであることは外国人登録法の規定に照して明瞭であるから、公務員たる身分を有する者であつても、権限なく行使の目的をもつて、市町村長の署名印章を冒用して擅にこれを作成すれば、直ちに刑法第一五五条第一項の公文書偽造罪が成立するのであつて、権限ある公務員がその職務に関し、虚偽の文書を作成した場合には該当しないことは謂う迄もないことである。更にかかる公文書偽造の行為はもとより正当な職務行為とは認められず、これをもつて有効な行政処分行為とは認めるに由ないものであることは勿論、単に条件を具備しないものに対し誤つて証明書が作成交付された場合とは到底同一に論ずることはできないのである。

被告人等の本件所為をもつて、公務員の為した行政処分行為で単なる職務上の規律に違反したにすぎないものとは認められない。

次に被告人李の司法警察員、検察官に対する供述調書はその形式内容の点から見ても亦同被告人の原審公判廷における供述に照しても十分任意性の存することが認められる。原判決がこれを犯罪証明の用に供したことをもつて、違法とは到底認められない。

更に免状とは一定の人に対し一定の行為を為す権能を付与する行政庁の証明書を汎称するものであるが、外国人登録証明書は人に対し一定の行為をすることのできる権能を付与するものでないことは、前説示により明瞭であるから、外国人登録証明書をもつて刑法第一五七条第二項にいう免状ということは全く当らないのであつて、被告人李の本件所為をもつて、刑法第一五七条第二項該当の所為とは認めるに由ないものである。

(山本謹 渡辺好 石井)

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